ドリアンとは
ドリアンってどんな果物ですか?と聞かれた際の私たちの答えは、「濃厚なカスタードクリームにブランデーを少し垂らしたような、感動的にまったりとしたフルーツ」です。ドリアンの原産地は東南アジアのマレー半島で、別名「フルーツの王様」、「悪魔のフルーツ」とも呼ばれています。栄養価が高く、葉酸やビタミンB1、代謝を促進し血行を良くして冷え性を和らげる効果が期待されるナイアシンが多く含まれることから、古くから国王の精力増強、女王の美容と健康促進のために食されてきました。硫⻩化合物を主因とする強烈なにおいから、嫌厭される方が多いのも確かですが、鮮度の高い美味しい品種のドリアンを一度食べたらやみつきになる方も多いのです。ドリアンの名産地であるマレーシアでは「ドリアン食べたさに借金する」と言われる程です。
ドリアンはどんな味?
前述した通り、「濃厚なカスタードクリームにブランデーを少し垂らしたような、感動的にまったりとしたフルーツ」と我々は感じていますが、実際に味わったことのない方々からすると、想像し難いかと思います。
まず食感ですが、まさにカスタードクリームのような、口のなかでまったりと広がるなめらかな果肉です。そのなかには絹のような繊維が含まれており、食べるときに歯はほとんど使いません。飲み込んだあとに口に残るような繊維はなく、とろけるような舌ざわりを覚えることでしょう。
ドリアンの味の特徴はなんと言ってもその甘さと、ほんのりと感じる苦みのバランスです。さながらフルーツミックスジュースのような豊かな香りや様々な味わいが複雑に混ざり合っていますが、その甘味はドリアン特有の優しい苦みによって素晴らしく調和が保たれています。「王様」の名にふさわしい、どのフルーツとも取れないような、しかし様々なフルーツの良いところだけを抽出して混ぜ合わせたような、非常に贅沢で甘美な味わいが楽しめます。
一度食べるとやみつきになってしまうドリアンは、なによりもその食味が優れていることによるのだと思います。
ドリアンの種類
一般的にドリアンと呼ばれているのは、Durio zibethinusという栽培種ですが、そのほかにも多くの野生種が存在します。また、ほかの多くの果物と同様にドリアンにも品種があり、その数は500品種以上と言われています。タイでは、独特なにおいを抑え、甘味と食感の良さで人気のモントーン種や、病気への抵抗性の高いチャネー種などが商業利用されています。また、マレーシアではDから始まる品種番号のついた品種が200以上も登録されています。最も流通量の多いD24(スルタン)、甘味と苦みのバランスや、ねっとりとした肉質で世界的にも人気の高級品種D197(猫山王)、さらに品評会で猫山王を打ち負かしたD200(黒刺)などがあります。品種により味わいや香り、大きさや果肉の色などが異なり、生産国では好みの品種を探して食べ比べることも可能です。中には、果肉が真っ赤な品種や、果皮の棘のない品種もあり、今後も新たな品種が生み出されていくことが期待されます。
ドリアンの栄養
ドリアンは他のトロピカルフルーツと比べ、高いカロリーを含みます。日本でよく食べられるバナナの100 gあたりのカロリーが86 kcalであるのに比べて、ドリアンは100 gあたり84~185 kcalと、品種によって差はあるものの、高いエネルギーを含む果物だと言えます。これは食物繊維や糖などの炭水化物や、パルミチン酸やオレイン酸をはじめとした脂肪酸を多く含むためです。ミネラル分では、カリウムを多く含むため、血圧を下げる効果が期待されます。カリウムの含有量は果物の中でもトップクラスです。また、ビタミンB1や葉酸など、ビタミンB群を果物の中でも特に多く含むため、貧血の防止や、冷え性の改善などに効果的である可能性があります。
ドリアンのにおい
やはりドリアンと言えば「臭い果物」というイメージが先行しているのではないでしょうか。ドリアンの産地では一部のホテルへの持ち込みが禁止であったり、飛行機の機内持ち込みが禁止されていたりと、強烈なにおいを放つ果物のイメージが浸透してしまっています。
確かに、収穫後時間の経ったドリアンはかなり強い香りを放ちます。ドリアンの香気成分には主に、エステル類や揮発性硫黄化合物で構成されています。プロパンガスのにおい付けに用いられているジエチルサルファイドや、世界一臭い物質としてギネスブックにも登録されているエタンチオールもその中に含まれます。しかし、フルーティーな香りを与える2-メチル酪酸エチルという物質もかなりの割合を占めており、ドリアンの香りに慣れてくると、不快な硫黄化合物のにおいと、ドリアンの持つフルーティーな香りとを区別できるようになります。
さらに、そもそも収穫したてのドリアンからは不快なにおいはほとんど放たれていません。所謂ドリアンの、玉ねぎのようなガスのようなにおいは、追熟の過程で発生するものだと考えられています。追熟とは、収穫してから果実の成熟が進む現象のことで、バナナや洋ナシ、キウイなどではおいしく食べるために利用されています。しかしこの追熟がドリアンにとって、ひいては消費者にとって悩みの種となっているのではないかというのが、現在の見解です。特に、タイ産のドリアンは追熟を行い、食べごろになるのを待つのが一般的です。そのため、日本をはじめとした輸入先ではにおいの強い印象を持たれたのだと思います。一方、マレーシアでは基本的に樹上で完熟して落果したものを収穫します。したがって、収穫したその日から食べごろであり、フルーティーな香りとドリアン本来の味わいを楽しめるのです。
現時点で、タイにおいて不快なにおいがほとんどない品種も確認されていますが、生産量が少ないためかほとんど流通していません。今後研究が進むと、不快な香りを抑えて、ドリアンの濃厚な味わいに集中することのできるようになる技術も生まれてくるかもしれません。
アルコールとの相性
ドリアンの産地であるタイやマレーシアなどには「ドリアンとビールを飲むと死に至る」という逸話がありますが、この逸話の根拠は乏しいため、冗談と取ってよろしいかと思います。しかし、ドリアンとアルコール飲料の食べ合わせが悪いことは事実のようです。最近の研究により、エタノールの分解過程で発生するアセトアルデヒドを分解する酵素であるALDHの働きを抑える効果があることがわかっています。アセトアルデヒドは二日酔いの原因ともなる物質です。つまり、ドリアンとお酒を同時に接種すると、気分が悪くなることがあるようです。このことは、本協会の理事である板井教授も経験したとのことです。